NVIDIA CuTe:GPUインデックス算術を革命する「レイアウト代数」とは

Machine Learning

はじめに

GPUプログラミングにおける最大の課題の一つは、テンソルの複雑なメモリ配置を管理することです。GPU自体はテンソルの構造を理解せず、すべての操作は線形メモリ上で行われます。行優先の行列であれば、インデックス(i, j)は i * C + j(Cは列数)に変換する必要があります。

NVIDIAのCUTLASSライブラリの一部であるCuTe(CUDA Tensor Expression)は、この問題に革新的なアプローチを提供します。それが「レイアウト代数(Layout Algebra)」です。

レイアウトとは何か

CuTeにおけるレイアウトは、シンプルながら強力な概念です。テンソルの形状(Shape)ストライド(Stride)の組み合わせとして定義されます:

L = S : D

ここで、Sは形状タプル、Dはストライドタプルです。

具体例:行列の表現

行優先のn×m行列:

(n, m) : (m, 1)
  • 最初の次元(行)を1増やすと、フラットインデックスはm増加
  • 2番目の次元(列)を1増やすと、フラットインデックスは1増加

列優先のn×m行列:

(n, m) : (1, n)
  • 行のストライドは1、列のストライドはn

フラットインデックスの計算は、インデックス i = {i_0, i_1, ..., i_d} とストライド s = {s_0, s_1, ..., s_d} に対して:

I = Σ(i_k × s_k) = i · s

ネストしたレイアウト:Swizzleパターン

レイアウトは他のレイアウトから構成できます。例えば:

((2,2), (2,2)) : ((1,4), (2,8))

これは4次元のレイアウトですが、実際にはインタリーブ(Swizzled)パターンを作成します。GPUカーネルでメモリバンク競合を防ぐために使用される典型的なパターンです。

座標から物理オフセットへの変換

| 座標 | 計算 | 物理オフセット |
|——|——|—————|
| ((0,0),(0,0)) | 0×1 + 0×4 + 0×2 + 0×8 | 0 |
| ((0,1),(0,0)) | 0×1 + 1×4 + 0×2 + 0×8 | 4 |
| ((1,0),(0,0)) | 1×1 + 0×4 + 0×2 + 0×8 | 1 |
| ((1,1),(0,0)) | 1×1 + 1×4 + 0×2 + 0×8 | 5 |
| ((0,0),(1,0)) | 0×1 + 0×4 + 1×2 + 0×8 | 2 |

このレイアウトは、0→4→1→5 のシーケンスを 0→2→1→3 パターンで繰り返す構造になっています。

レイアウト代数の演算

CuTeの真価は、レイアウトに対する代数的演算にあります。

1. Coalescing(統合)

レイアウトを簡素化する演算です。ランク(モード数)を減らします。

例:(2,4):(1,2)8:1 と同等(1次元座標の場合)

統合の条件: 2つのモードが連続している場合、つまり次のモードのストライドが前のモードの総インデックス数と等しい場合:

d_1 = s_0 × d_0

この場合、2つのモードは s_0 × s_1 : d_0 にマージされます。

2. Composition(合成)

2つのレイアウトをチェーンさせる演算です。レイアウトAとBがある場合:

(B ∘ A)(i) = B(A(i))

用途: ティリング(タイリング)の基本概念。大きなデータをGPUの共有メモリやレジスタに収まる小さなチャンクに分割するために使用します。

例:

  • A = (3,2):(1,3) (3×2の2次元レイアウト)
  • B = 6:2 (オフセット {0,2,4,6,8,10} への1次元マッピング)

合成結果:(3,2):(2,6)

3. Complement(補集合)

レイアウトAがインデックス空間の一部しかカバーしない場合、残りの部分を埋めるレイアウトが補集合です。サイズMに対して:

A*_M = (d_0, d_1/(s_0×d_0), ..., M/(s_n×d_n)) : (1, s_0×d_0, ..., s_n×d_n)

4. Division(分割)

レイアウトBを、レイアウトAで定義された等サイズのタイルに分割します:

B ⊘ A := B ∘ (A, A*_M)

1D例: B = 12:1A = 4:1 の場合

  • 補集合:A*_12 = 3:4(タイルオフセット {0, 4, 8})
  • 結果:(4,3):(1,4) — 4要素のタイルが3つ

2D例: B = (4,6):(1,4)(4×6列優先行列)、タイラー A = (2,3)

  • モード0:(2,2):(1,2) — タイル内2行、2タイル行
  • モード1:(3,2):(4,12) — タイル内3列、2タイル列

なぜCuTeが重要なのか

1. 抽象化による生産性向上

従来のGPUカーネルでは、複雑なインデックス計算を手動で記述する必要がありました。CuTeのレイアウト代数により、プログラマは論理的なアルゴリズムの記述に集中できます。

2. メモリ階層の効率的な利用

ティリング操作により、データを効率的に:

  • グローバルメモリ → 共有メモリ → レジスタ

と移動できます。

3. 汎用性

行列乗算だけでなく、畳み込み、Transformerのアテンションなど、様々なテンソル操作に適用可能です。

4. 2026年の新しい発展

2026年1月には、CuTeレイアウトの圏論的基礎に関する論文も公開されており、この分野が活発に研究されていることがわかります。

実践的なユースケース

行列乗算カーネル

CuTeを使用した行列乗算では:

  • 入力行列をブロックに分割(Division演算)
  • 各ブロックを共有メモリにロード
  • レジスタレベルでMMA(Matrix Multiply-Accumulate)演算
  • 結果を書き戻し
  • すべての段階でレイアウト代数がインデックス計算を抽象化します。

    メモリバンク競合の回避

    Swizzedレイアウトを活用することで、共有メモリのバンク競合を自動的に回避するデータ配置を実現できます。

    まとめ

    NVIDIA CuTeのレイアウト代数は、GPUプログラミングにおけるパラダイムシフトをもたらしています:

    • 宣言的記述:インデックス計算ではなく、データの論理構造を記述
    • 合成可能性:小さなレイアウトから複雑なレイアウトを構築
    • 最適化の自動化:メモリアクセスパターンの最適化を抽象化

    CUTLASSライブラリの一部として、すでに本番環境で使用可能です。高性能GPUカーネルを開発するエンジニアにとって、CuTeの理解は必須のスキルになりつつあります。

    参考資料

    *この記事は2026年2月26日に作成されました。*

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